「法定実効税率」とは、法人の所得に対して実質的に課せられる税率のことをいいます。
一方で、実際に税金を納付するときに使われるのが「表面税率」です。
この「法定実効税率」と「表面税率」の違いを理解しておくことで、予算管理や会計処理の検討の際に役立ちます。
今回はそれぞれの税率の違いを詳しく見ていきたいと思います。
法定実効税率とは
法定実効税率とは所得に対して課される税(法人税、住民税、事業税)の税率を使って計算される「実質的に負担する税率」を言います。
実効税率は、単にそれぞれの税の税率を足し合わせたものではなく、一定の調整を加える必要があります。ここは後ほど詳しく解説していきます。
法定実効税率が使われる場面は、主に「税効果」の計算です。
税効果会計は、会計上の費用・収益と税務上の損金・益金の差を調整することで、会計上の利益と税負担を対応させることを目的とするものです。
この時、費用や収益の調整額に「実効税率」を掛けて税効果を計算します。
上場会社の財務諸表を見ると、「繰延税金資産」や「法人税等調整額」といった科目を目にすることもあるかと思いますが、それらが税効果会計によって現れた科目です。
企業が所得に応じて課される税金の種類
法人税の実効税率は、企業の所得に対して課される税率を元にして計算されます。
そこでまずは、企業の所得に対してどのような税金が課せられているかを見ていきます。
法人税
法人税はおなじみですね。法人の所得に対して課される「国税」です。
法人税は、法人の種類や資本金の額などによって税率が異なります。令和4年(2022年)4月1日以降開始事業年度の、普通法人の場合の税率はこちらです。
- 資本金1億円超の普通法人
-
23.2%
- 資本金1億円以下の普通法人
-
所得が年800万円以下の部分は15%
年800万円超の部分は23.2%
税率は税制改正などで変わる可能性があります。最新の税率は国税庁のHPで確認したり、税理士や会計士に聞くことをおすすめします。
地方法人税
地方法人税も、法人の所得に対して課される「国税」です。
地方法人税は国と地方との税源格差を是正するために導入されました。つまり、いったん国には納めるけれど、国から地方へ配分される税金になります。
令和4年(2022年)4月1日以降開始事業年度の、地方法人税の税率は10.3%です。
また、地方法人税は、「法人税額×税率(10.3%)」で計算します。税率を掛ける相手が所得ではなく「法人税額」となります。
法人住民税(法人税割)
法人税は、その法人が所在する地方自治体(都道府県と市町村)が課す税金です。
法人住民税には、次の2種類があります。
- ①法人税割
-
法人税の額に対して課される税金
一定の法人には「超過税率」が適用され、それ以外の法人には「標準税率」が適用されます。
なお、東京都の場合は、都道府県民税 1.0%(超過税率 2.0%)、市町村民税 6.0%(超過税率 8.4%)です。
※令和元年10月1日以後に開始する事業年度の場合 - ②均等割
-
法人の資本金や従業員数(50人以下か超か)に応じて課される税金
法定実効税率の計算に使われるのは、法人の所得に対する税金である「法人税割」のみです。
事業税(所得割)
事業税は、法人の事業活動に対して、地方自治体から課される税金です。
事業税も、住民税と同じく法人の所在地の自治体に納付します。
資本金1億円以下の普通法人は「所得割」のみ納めますが、資本金1億円超の普通法人(外形標準課税適用法人)は「所得割」に加えて、付加価値額に応じて課税される「付加価値割」、資本金等の額に応じて課される「資本割」も納める必要があります。
なお、ここでも、法定実効税率の計算に使われるのは、法人の所得に対する税金である「所得割」のみです。
特別法人事業税
特別法人事業税とは、国と地方自治体との税源格差の是正のために設けられた「国税」です。
ただし、納付先は事業税と同じ地方自治体になります。
特別法人事業税は、基準法人所得割額(標準税率で計算した法人事業税の所得割額)に税率をかけて計算します。
税率は、資本金1億円超の普通法人(外形標準課税適用法人)260%、資本金1億円以下の普通法人は37%です。
法定実効税率の計算方法
それでは、いよいよ法定実効税率を計算してみましょう。
資本金1億円超の普通法人の実効税率(外形標準課税適用法人)
外形標準課税適用法人の場合の法定実効税率の計算方法はこちら。
法定実効税率=
(法人税率×(1+住民税率+地方法人税率)+事業税率(超過税率)+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率)/(1+事業税率(超過税率)+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率)
ちなみに、この式の分子が「表面税率」になります。
ちょっと複雑な数式ですが、それぞれの税率を当てはめていけば計算できます。
では具体的に、東京都23区内にある資本金1億円超の普通法人の実効税率を計算していきましょう。
種類 | 税率 |
法人税 | 23.2% |
地方法人税 | 10.3% |
法人住民税(法人税割) | 10.4%(超過税率) ※都道府県民税と市町村民税の合計 |
事業税(所得割) | 1.18%(超過税率)、1.0%(標準税率) |
特別法人事業税 | 260% |
直接、法定実効税率を計算することもできますが、ここでは段階を踏んで、各税目ごとの、所得に対する税率を計算したうえで、実効税率を出してみたいと思います。
<資本金1億円超の普通法人の実効税率>
項目 | 税率 | 計算式 |
法人税率&地方法人税率 | ||
法人税率 | 23.2% | (a) |
地方法人税率 | 10.3% | (b) |
法人税率×地方法人税率 | 2.39% | (c)=(a)×(b) |
法人税と地方法人税の合計税率 | 25.59% | (d)=(a)+(c) |
法人住民税率 | ||
住民税率(法人税割) | 10.4% | (e) |
法人税率×住民税率(法人税割) | 2.41% | (f)=(a)×(e) |
事業税率 | ||
事業税率(超過税率) | 1.18% | (g) |
事業税率(標準税率) | 1.0% | (h) |
特別法人事業税率 | 260% | (i) |
事業税率(標準税率)×特別法人事業税 | 2.6% | (j)=(h)×(i) |
事業税と特別法人事業税の合計税率 | 3.78% | (k)=(g)+(j) |
表面税率(=実効税率分子) | 31.78% | (l)=(d)+(f)+(k) |
(実効税率分母) | 103.78% | (m)=1+(k) |
実効税率 | 30.62% | (n)=(l)/(m) |
このように、外形標準課税適用法人の表面税率と実効税率がそれぞれ計算できました。
分解して計算することで、所得に対する各税金の税率が詳しく分かります。
資本金1億円以下の普通法人の実効税率
次は資本金1億円以下の普通法人の実効税率を見ていきます。
資本金1億円以下の普通法人であっても、法人税額や所得の金額によっては超過税率が課せられます。
超過税率が課される資本金1億円以下の普通法人
・法人住民税・・・法人税額が年1,000万円超
・事業税・・・年所得額が2,500万円超
それでは、東京都23区内にある資本金1億円以下の普通法人の実効税率を計算していきましょう。
種類 | 税率 |
法人税 | 23.2% |
地方法人税 | 10.3% |
法人住民税(法人税割) | 10.4%(超過税率)、7.0%(標準税率) ※都道府県民税と市町村民税の合計 |
事業税(所得割) | 7.48%(超過税率)、7.0%(標準税率) |
特別法人事業税 | 37% |
資本金1億円以下の普通法人の実効税率(標準税率適用の場合)
項目 | 税率 | 計算式 |
法人税率&地方法人税率 | ||
法人税率 | 23.2% | (a) |
地方法人税率 | 10.3% | (b) |
法人税率×地方法人税率 | 2.39% | (c)=(a)×(b) |
法人税と地方法人税の合計税率 | 25.59% | (d)=(a)+(c) |
法人住民税率 | ||
住民税率(法人税割) | 7.0% | (e) |
法人税率×住民税率(法人税割) | 1.62% | (f)=(a)×(e) |
事業税率 | ||
事業税率(標準税率) | 7.0% | (g) |
特別法人事業税率 | 37% | (h) |
事業税率(標準税率)×特別法人事業税 | 2.59% | (i)=(g)×(h) |
事業税と特別法人事業税の合計税率 | 9.59% | (j)=(g)+(i) |
表面税率(=実効税率分子) | 36.8% | (k)=(d)+(f)+(j) |
(実効税率分母) | 109.59% | (l)=1+(j) |
実効税率 | 33.58% | (m)=(k)/(l) |
資本金1億円以下の普通法人の実効税率(超過税率適用の場合)
項目 | 税率 | 計算式 |
法人税率&地方法人税率 | ||
法人税率 | 23.2% | (a) |
地方法人税率 | 10.3% | (b) |
法人税率×地方法人税率 | 2.39% | (c)=(a)×(b) |
法人税と地方法人税の合計税率 | 25.59% | (d)=(a)+(c) |
法人住民税率 | ||
住民税率(法人税割) | 10.4% | (e) |
法人税率×住民税率(法人税割) | 2.41% | (f)=(a)×(e) |
事業税率 | ||
事業税率(超過税率) | 7.48% | (g) |
事業税率(標準税率) | 7.0% | (h) |
特別法人事業税率 | 37% | (i) |
事業税率(標準税率)×特別法人事業税 | 2.59% | (j)=(h)×(i) |
事業税と特別法人事業税の合計税率 | 10.07% | (k)=(g)+(j) |
表面税率(=実効税率分子) | 38.07% | (l)=(d)+(f)+(k) |
(実効税率分母) | 110.07% | (m)=1+(k) |
実効税率 | 34.59% | (n)=(k)/(l) |
法定実効税率と表面税率の違い
以上を見てもうお分かりかもしれませんが、表面税率よりも実効税率のほうが小さくなっています。
これは事業税と特別法人事業税(ここではまとめて事業税とします)が、所得の計算上「損金算入」されるためです。
例えば、所得が10,000百万円、表面税率で計算された事業税が10,000百万円×3.78%=378百万円だったとします。
このとき、事業税378百万円が損金に算入されるので、実質的な事業税は(10,000百万円ー378百万円)×3.78%=364百万円となり、実質的な事業税負担額のほうが14百万円だけ小さくなります。これが表面税率よりも実効税率のほうが小さくなる理由です。
まとめ
今回は、法定実効税率の定義と計算方法、表面税率の違いなどを解説しました。
特に税効果会計を導入している企業にとっては、法定実効税率の仕組みを理解しておくのは大事なポイントです。
また、税率は毎年変更される可能税があるので、国税庁や地方自治体のHPなどで最新の適用税率を確認したり、税理士や会計士に確認しておくのも重要ポイントです。
ご参考にしてみてください。
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